喫煙のリスク
今回は喫煙のリスクについてまとめました。
●禁煙にチャレンジしたけど、あきらめてしまった方
●本数を減らせば大丈夫でしょ、とお考えの方
●長年喫煙していたから今さら禁煙しても意味ないのでは、とお考えの方
などにぜひ読んでいただきたいと思います。
タバコの煙について
タバコ煙の成分
タバコの煙には、4000種類もの化学物質が含まれています。
この中には60種類の発がん性物質も含まれます。
これは「身のまわりの例」にあげたように有毒なものばかりであると分かります。
タバコ煙の成分 | 身のまわりの例 |
アンモニア | 悪臭減、屎尿 |
ホルムアンデヒド | シックハウスの原因、塗料 |
トルエン |
シンナーの主成分 |
フェノール |
消毒殺虫剤の主成分 |
ベンゼン | ガソリンの成分 |
シアン化水素 |
殺鼠剤 |
カドミウム | 電池、イタイイタイ病 |
一酸化炭素 | 車の排気ガス |
ダイオキシン | ごみ焼却煙 |
《出典》
喫煙と健康問題に関する検討会編. たばこ煙の成分: 新版喫煙と健康. 37, 2002.
日本内科学会旧認定内科専門医会タバコ対策推進委員会制作/喫煙と健康に関するスライド集より
副流煙と主流煙
喫煙者が吸い込む煙が主流煙、タバコの先端から立ち上る煙が副流煙です。
副流煙は燃焼温度が低く、燃焼が不完全です。
有害な成分をたくさん含むタバコ煙ですが、主流煙より副流煙の方が有害物質を数倍~数十倍の高濃度で含んでいます。
日本における成人死亡の最大の危険因子は「喫煙」
日本では、現在、能動喫煙によって年間12~13万人が死亡していると推定されています。
日本におけるある研究によると、能動喫煙によって、がん死亡:7.7万人、循環器疾患死亡:3.3万人、呼吸器系疾患死亡:1.8万人で、合計12.9万人が死亡しており、この値は年間の全死亡者数の約1割に相当すると推定されています。
喫煙による推定死亡者数に匹敵する危険因子は高血圧のみであり、喫煙と高血圧が日本人の死亡に大きく寄与していることが示されています。
また、がん死亡に限ると、能動喫煙によるがん死亡者の数は他の危険因子を大きく引き離して第一位です。能動喫煙が、がん死亡の中心的な危険因子であることが分かります。
2007年の我が国における危険因子に関連する非感染症疾病と外因による死亡
《出典》
Ikeda N, et al: Adult mortality attributable to preventable risk factors for non-communicable diseases and injuries in Japan: a comparative risk assessment. PLoS Med. 2012; 9(1): e1001160.
池田奈由, 他. 国民皆保険達成から50年, THE LANCET 日本特集号: 29-43, 2011年
喫煙者は10年短命
イギリスの医師会会員を対象に50年以上にわたり大規模な研究が行われました。
その結果、喫煙者の寿命は大きく損なわれることが判明しました。たとえば、70歳で喫煙者は58%が生存していましたが、非喫煙者は81%と大きく差がつきました。70歳の喫煙者の生存割合58%は、80歳の非喫煙者の生存割合59%と同等であり、約10年の差です。50%の人が生存している年齢でみても、喫煙は約10年の寿命を損なうことが分かります。
《出典》
Doll R, Peto R, Boreham J, Sutherland I. Mortality in relation to smoking: 50 years‘ observations on male British doctors. BMJ 328; 1519, 2004.
日本内科学会旧認定内科専門医会タバコ対策推進委員会制作/喫煙と健康に関するスライド集より
肺癌と喫煙の関係
肺癌死者数は増加している
肺癌は、全癌の12%の割合で発生し、男女合わせて部位別第2位と、癌の中で重要です。
肺癌死者数は、他の主な部位の癌と比べても爆発的に増加しています。
部位別の癌死亡数の推移
《出典》
禁煙によって肺がん発生の危険性が減少
喫煙のレベルにより順次肺癌の発生の危険性が高まることが判明しています。
喫煙による肺癌発生の危険性
(*は非喫煙者に比べて統計学的に優位であることを表す)
《出典》
Sobue T, Yamamoto S, Hara M, Sasazuki S, Sasaki S, Tsugane S; JPHC Study Group. Japanese Public Health Center. Cigarette smoking and subsequent risk of lung cancer by histologic type in middle-aged Japanese men and women: the JPHC study. Int J Cancer 99; 245-251, 2002.
厚生労働省多目的コホート研究において、喫煙者は4.5倍肺がんになりやすいことが報告されています。禁煙をすると、10年、20年と時間が経つにつれ、肺がん発生の危険性が減少していきます。タバコをやめてから9年以内では、吸わない人に比べて 3倍でしたが、10~19年では1.8倍、20年以上でタバコを吸わない人とほぼ同じになっていました。
肺がんにならないため、できるだけ早く禁煙することが重要です。
禁煙による肺癌リスクの低下
《出典》
Sobue T, et al; JPHC Study Group. Int J Cancer. 99:245, 2002.
日本内科学会旧認定内科専門医会タバコ対策推進委員会制作/喫煙と健康に関するスライド集より
肺癌になった後に禁煙しても、死亡率・癌再発が減少
肺癌が起こってしまっても、禁煙はその後の経過によい効果を与えます。
早期の非小細胞肺癌において禁煙に成功した場合に比べ、喫煙を継続すれば、死亡や癌の再発が増加します。禁煙に成功すれば、5年後の生存確率が向上します。
禁煙の肺癌治療への効果(早期非小細胞肺癌)
《出典》
Parsons A, Daley A, Begh R, Aveyard P. Influence of smoking cessation after diagnosis of early stage lung cancer on prognosis: systematic review of observational studies with meta-analysis. BMJ 340; b5569, 2010.
禁煙の肺癌発生後の予後への影響
《出典》
Parsons A, Daley A, Begh R, Aveyard P. Influence of smoking cessation after diagnosis of early stage lung cancer on prognosis: systematic review of observational studies with meta-analysis. BMJ 340; b5569, 2010.
タバコは癌の最大の原因
喫煙者に癌が多いことは従来から判明しています。
喫煙者の癌の原因を調査すると、喫煙が60%を占め、タバコが最大の原因となります。
紫外線や大気汚染などの原因は微々たるものです。
《出典》
Peto J. Cancer epidemiology in the last century and the next decade. Nature 411(6835); 390-395, 2001.
日本内科学会旧認定内科専門医会タバコ対策推進委員会制作/喫煙と健康に関するスライド集より
喫煙は虚血性心疾患の危険因子
喫煙は虚血性心疾患および心筋梗塞の危険因子でもあります。
《出典》
Baba S, Iso H, Mannami T, Sasaki S, Okada K, Konishi M; Shoichiro Tsugane; JPHC Study Group. Cigarette smoking and risk of coronary heart disease incidence among middle-aged Japanese men and women: the JPHC Study Cohort I. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil 13; 207-213, 2006.
禁煙期間が長いほど、心臓血管疾患の死亡リスクは下がる
禁煙は糖尿病患者の心臓血管疾患の死亡リスクを下げます。禁煙してから5年以内は心臓血管疾患の死亡リスクは2.39倍、5~10年は2.18倍と、非喫煙者より高いリスクですが、禁煙後10年以上経過すると心臓血管疾患の死亡リスクは非喫煙者と同様になります。禁煙はできるだけ早く行いましょう。
《出典》
Al-Delaimy WK, Willett WC, Manson JE, Speizer FE, Hu FB. Smoking and mortality among women with type 2 diabetes: The Nurses‘ Health Study cohort. Diabetes Care 24; 2043-2048, 2001.
喫煙は脳卒中の危険因子
喫煙は脳卒中の危険因子です。脳卒中の中でも脳梗塞による死亡リスクが大きく関わります。
《出典》
Ueshima H, Choudhury SR, Okayama A, Hayakawa T, Kita Y, Kadowaki T, Okamura T, Minowa M, Iimura O. Cigarette smoking as a risk factor for stroke death in Japan: NIPPON DATA80. Stroke 35; 1836-1841, 2004.
喫煙は認知症の危険因子
現在では喫煙が認知症の強力な危険因子であることが判明しています。
(*は非喫煙者に比べて統計学的に優位であることを表す)
《出典》
Ott A, Slooter AJ, Hofman A, van Harskamp F, Witteman JC, Van Broeckhoven C, van Duijn CM, Breteler MM. Smoking and risk of dementia and Alzheimer’s disease in a population-based cohort study: the Rotterdam Study. Lancet 351(9119); 1840-1843, 1998.
喫煙で皮膚のしわが増える
非喫煙者に比べ、過去に喫煙していた人は皮膚のシワが増えます。現在喫煙している人はさらにシワが増え、その影響は年齢が重なるにつれて大きくなります。美容のためにも喫煙しないこと、喫煙している人は禁煙することが重要です。
《出典》
Castelo-Branco C, Figueras F, Martínez de Osaba MJ, Vanrell JA. Facial wrinkling in postmenopausal women. Effects of smoking status and hormone replacement therapy. Maturitas 29; 75-86, 1998.
日本内科学会旧認定内科専門医会タバコ対策推進委員会制作/喫煙と健康に関するスライド集より