熱中症
熱中症とは?
実は、熱中症の明確な定義や診断基準というものはありません。
一般的には、「高温多湿な環境下における身体適応障害によって発生する状態の総称」、つまりは、暑くてじめじめする場所で過ごしたり活動したりしたときに、からだがなじめずにまいってしまうことを指します。
熱中症の危険性
熱中症を発症する年齢層は、0~4歳、15~19歳、50~54歳、80歳以上、に多くみられます。乳幼児は車の中への閉じ込め事故などが多く、思春期の年齢層ではスポーツ中、社会人層は労働作業中、そして高齢者は日常生活場面での発生が多くみられます。
熱中症による死亡者数は、総数としては男性に多いのが特徴です。
熱中症全体にしめる高齢者の割合は増加してきており、熱中症患者全体の約4割をしめ、死亡者数は熱中症死亡総数の約3/4に達します。また、エアコンを使用していない環境での発症、介護度の高い患者さん、水分摂取が少ない患者さん、で重症度が高い傾向がみられます。
熱中症がよく起きる時期・場所
7月中旬くらいから急激に増える
熱中症の発症する時期として、急激な気温の上昇と多湿環境に身体がすぐに慣れない時期である、梅雨明け直前くらいの7月中旬くらいから急激に増え始めます。その後は、梅雨明け直後の7月下旬にピークを迎え、真夏日や熱帯夜の続く8月の下旬までは同じように危険が続き、9月の上旬に患者さんの数は急激に減ります。ただし、寒い季節においても、締め切った室内で、高温で暖房を続けて使用した場合などには発症することがあり、注意が必要です。
さまざまな場所で起きる
熱中症を発症する場所はさまざまで、実際にどこで起きたかはっきりしないこともよくあります。場所が特定された熱中症の場合ですと、死亡率が高いのは家庭、居住施設でのものです。これは、特に発生者が多い高齢者の方の場合に、若い人と比べてエアコンなどの空調設備を使用しない傾向がみられるためと考えられます。
熱中症の重症度分類
熱中症の分類としては、かつては熱失神/日射病、熱痙攣、熱疲労、および熱射病、といった分類がされていました。しかし、それぞれの用語の分類、定義があいまいで、重症度の把握もしづらいことなどから、最近では日本救急医学会や日本神経救急学会では、シンプルな新しい分類が用いられるようになりました。
熱中症の新分類
熱中症の新しい分類では、重症度を軽症から順番に、I度(軽症群)、II度(中等症群)、III度(重症群)に分けて、それぞれの群について症状や臓器の障害度合いを明確に記載し、それぞれの重症度に応じた治療方針が示されているため、われわれ医師にとっては臨床的にとても有用です。
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※下のイメージは横スクロールでご覧頂けます。
日本救急医学会 熱中症分類2015
熱中症予防・対策
熱中症は、そうならないための予防が大切です。
高温、多湿の環境に長時間とどまらないようにしましょう。
熱中症対策
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室内
・適度にエアコンを使用する
・窓を開ける
・除湿器を使用する
・水分補給を行う -
室外
・なるべく日陰で過ごす
・炎天下での長時間作業を避ける
・帽子をかぶる
・適度に休憩を取る
・水分補給を行う
水分補給は、水だけが失われるわけではなく、塩分も喪失するため、これらをあわせて補給する必要があります。最近では、経口補水液(oral rehydration solution : ORS)が薬局などで市販されていますが、自分で用意することもできます(水1Lに対して、砂糖大さじ4杯、塩小さじ1/2杯をよく混ぜ合わせます)。そのほか、スポーツドリンクでもよいでしょうし、やむを得ない場合にはお水と梅干しなどを同時にとるようにします。
※注意
通常はあまり問題になりませんが、脱水が強い場合の水分補給には、コーヒー、紅茶、緑茶などは、利尿作用があるため、避けた方が安全と考えられます。なお、麦茶には利尿作用はほとんどないため大丈夫です。
熱中症になってしまったら?
軽症であれば、原因となった高温、多湿の環境から離れて、風通しの良い日陰や空調の効いた部屋などに移動し、まず安静にします。その上で、身体を冷やすようにします。衣服を脱いで、水をスプレーしながら扇風機で送風すると、気化熱によって冷却することができ、有効です。その他、首の回り、腋の下、太ももの付け根にアイスパックをあてるのもよいでしょう。
※注意
発熱に対して使用される、非ステロイド性消炎解熱鎮痛薬や、アセトアミノフェンなどの熱をさげる薬剤は無効です。これは、熱中症は、高体温症であって、発熱ではないためです。
上記の対策でも症状がよくならない場合や、II度の熱中症の症状に当てはまる場合(頭痛、おうと、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下など)、意識がもうろうとする場合、などは、迷わず早めに医療機関を受診するようにしてください。